高齢者・リハビリ

退院後のリハビリをやめないために — 在宅で機能を維持する方法

約7分執筆: 宮田 隼斗代表 / 理学療法士

入院中は毎日のようにリハビリの時間があったのに、 退院した途端、ぱったりと途切れてしまった——。 退院後のこの「空白」で体力や筋力を落とし、 「入院前より動けなくなった」と感じてしまう方は、実は少なくありません。

退院は治療のゴールですが、生活にとってはスタートです。 この記事では、退院後に身体の機能が低下しやすい理由と、 ご自宅で機能を維持していくための具体的な工夫を、 理学療法士の視点からお伝えします。

退院後に体力・筋力が落ちやすい3つの理由

1. 入院中の安静で、身体は思った以上に弱っている

病気やけがの治療のためとはいえ、入院中はどうしても身体を動かす量が減ります。 安静にして寝ている状態が続くと、筋力は1週間で1〜2割ほど低下するとも言われており、 使わないことで筋力や体力が落ちていく状態は「廃用症候群」と呼ばれます。 特に高齢の方は、落ちた筋力を取り戻すのに落ちるまでの何倍もの時間がかかります。 退院時の身体は「元どおり」ではなく、 「自宅での生活をなんとか始められるライン」にいることが多い、という前提を持っておくことが大切です。

2. 退院すると、活動量が一気に下がる

意外に思われるかもしれませんが、退院後は入院中よりも活動量が下がることがあります。 入院中はリハビリ室への移動や訓練の時間が毎日組み込まれていますが、 自宅ではその予定がなくなり、 「ソファに座ってテレビを見て一日が終わっていた」ということが起こりがちです。 ご家族が心配して身の回りのことを全部やってあげてしまうと、 本人が身体を動かす機会はさらに減ります。

3. リハビリの機会そのものが減る

制度上の理由もあります。医療保険で受けられるリハビリには、 疾患ごとに標準的算定日数と呼ばれる期間の目安(おおむね90〜180日)が定められており、 発症や手術からの日数が経つと、外来リハビリを続けられなくなることがあります。 介護保険のリハビリに移行するにも、認定の申請やケアプランの調整に時間がかかる場合があり、 この「制度の切れ目」の期間に活動量と機能が落ちてしまうことがあるのです。

こわいのは「動かない → 動けない」の悪循環

退院後の機能低下でもっとも注意したいのは、悪循環に入ってしまうことです。

動かない日が続くと、筋力とバランス能力が落ちます。 すると動くのがおっくうになり、転ぶのが怖くなって外出を控えるようになります。 外出が減るとさらに筋力が落ち、実際に転びやすくなる。 転倒して骨折すれば再入院となり、また安静の期間が始まる——。 この流れは、高齢の方の生活機能が低下していく典型的なパターンです。

逆に言えば、この循環はどこかで断ち切ることができます。 そしていちばん効果的なのは、できるだけ早い段階、つまり退院直後から「動く生活」を設計することです。

在宅で機能を維持する5つの工夫

1. 「生活そのもの」をリハビリにする

リハビリは、特別な運動の時間だけを指すのではありません。 朝、自分で着替える。洗濯物をたたむ。食器をテーブルまで運ぶ。 こうした生活動作のひとつひとつが、筋力とバランスを使う立派な運動です。 「危ないから」「時間がかかるから」と家族が代わりにやってしまうのではなく、本人ができることは本人がやる生活を、 少し意識して組み立ててみてください。

2. 座りっぱなしの時間を区切る

長く座り続けること自体が、体力低下の一因になります。 「30分〜1時間に一度は立ち上がる」を目安に、 テレビのCMのたびに立つ、お茶は自分で淹れに行く、 トイレは少し遠い方を使う、といった小さなルールを生活に入れてみましょう。 1回1回は小さくても、1日の合計では大きな差になります。

3. 安全に動ける環境を整える

「動く生活」を続けるための土台は、転倒の予防です。 よく通る動線の床に物を置かない、電気コードをまとめる、 夜間のトイレまでの通路に明かりを確保する、滑りにくい履物を選ぶ、 必要な場所に手すりを付ける——。 環境を整えることは、本人の努力に頼らずに転倒リスクを下げられる、確実性の高い対策です。 福祉用具や住宅改修には介護保険の制度が使える場合があるので、 ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみてください。

4. 栄養と水分も「リハビリの一部」

身体を動かしても、材料になる栄養が足りなければ筋肉は育ちません。 特に大切なのがタンパク質です。肉・魚・卵・大豆製品・乳製品を、 毎食どれかひとつは取り入れることを意識してみてください。 退院後は食欲が落ちていることも多いので、 一度にたくさん食べられない場合は、間食も使って回数を分けるのがコツです。 水分不足はだるさやふらつきにもつながるため、こまめな水分補給も忘れずに。

5. 目標を「生活の言葉」で持つ

「筋力を維持する」という目標は、続ける動機としては弱いものです。 「春になったら孫の入学式に歩いて行く」「畑仕事をもう一度やる」 「近所の温泉にまた行く」——。 そんな生活の言葉で目標を持つと、日々の運動に意味が生まれ、続きやすくなります。 ご家族もぜひ、本人の「またやりたいこと」を一緒に見つけてあげてください。

ご家族ができるサポート — 「やってあげすぎない」勇気

退院してきた家族を前にすると、心配のあまり、 なんでも先回りして手伝いたくなるのが自然な気持ちです。 しかし、良かれと思った手助けが、本人の「できる」を少しずつ奪ってしまうことがあります。

  • 時間がかかっても、まず本人にやってもらい、そばで見守る
  • 全部を手伝うのではなく、危ない部分・できない部分だけを支える
  • 「できたこと」に目を向けて、一緒に喜ぶ
  • 不安なことは抱え込まず、専門職に相談する

「手伝う」から「見守る」へ。ご家族の関わり方が変わるだけで、 本人の活動量と自信は大きく変わります。

退院後に利用できるリハビリの選択肢

自宅での工夫とあわせて、専門的なサポートも活用しましょう。 退院後のリハビリには、主に次のような選択肢があります。

  • 外来リハビリ — 通院して受けるリハビリ。医師の判断・算定日数の範囲で利用します。
  • 介護保険のリハビリ — 通所リハビリ(デイケア)や訪問リハビリ。要介護・要支援の認定とケアプランが必要です。
  • 市町村の介護予防教室 — 釧路市などの自治体が行う運動教室・介護予防事業。
  • 保険外(自費)の訪問リハビリ — 認定や指示書なしで利用でき、回数も自由。制度の切れ目や上乗せに使えます。

どれを選べばいいか迷ったら

保険制度のサービスと保険外サービスの違い・選び方は、別の記事で詳しく解説しています。 あわせてご覧ください。訪問リハビリと訪問整体の違い — 保険外リハビリという選択肢

Baby Steps では、理学療法士が釧路エリアのご自宅に伺い、 評価に基づいた施術・機能訓練と、この記事でご紹介したような 生活・環境づくりのアドバイスを行っています。 「退院したばかりで、何から始めればいいか分からない」という段階からのご相談も歓迎です。 詳しくは訪問リハビリ(保険外・自費)のページをご覧ください。

まとめ

  • 退院時の身体は「元どおり」ではなく、機能低下からの回復の途中にあります。
  • 退院後は活動量とリハビリ機会が同時に減りやすく、「動かない→動けない」の悪循環に入りやすい時期です。
  • 生活動作をリハビリと捉え、座りっぱなしを区切り、安全な環境と栄養で「動く生活」を支えましょう。
  • ご家族は「やってあげすぎない」ことが最大のサポートになります。
  • 外来・介護保険・自費など複数の選択肢を組み合わせ、リハビリを途切れさせないことが大切です。

退院後の数か月は、その後の生活の質を左右する大切な時期です。 「もう歳だから」とあきらめる前に、できる工夫がたくさんあります。 一歩ずつ、一緒に進んでいきましょう。

本記事について

本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。 お身体の状態について心配なことがある場合は、医療機関・専門機関にご相談ください。 制度に関する記載は執筆時点の情報に基づいており、変更される場合があります。

執筆者 宮田 隼斗

この記事を書いた人

宮田 隼斗代表 / 理学療法士

国家資格を持つ理学療法士。北海道釧路エリア(釧路市・釧路町・鶴居村)で、 お子さまの発達支援から高齢の方の在宅リハビリまで対応する訪問整体 「Baby Steps」を運営。プロフィールを見る

退院後のリハビリ、途切れさせないために

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